交通事故で生死の境をさまよい左腕に障害が残る50歳代の会社員、植村直己さんにあこがれ世界の頂へ…「知らないうちにあきらめそうになっていた」「自分はまだ5合目辺り」
交通事故の後遺症で左腕に障害が残る兵庫県姫路市の会社員片山貴信さん(51)が世界の名峰に挑んでいる。同県豊岡市出身の冒険家・植村直己さんにあこがれ、2015年以降、年1回のペースで標高5000メートルを超える山々に登頂してきた。目指すは植村さんが消息を絶った北米最高峰のデナリ(旧称・マッキンリー)。「いつかは登ってみせる」と思いをはせる。(古市豪)
片山さんは1994年にバイクで転倒し、意識不明の重体となって10日間生死の境をさまよった。意識は戻ったが、医師から「左腕は二度と動かない」と告げられたという。
それでも、「やりたいことがたくさんあった」とリハビリに励んだ。自ら左腕を針でつついて神経を刺激するところから始め、約3年後には顔を洗うなどの日常生活を送れるまで回復。とはいえ、以前と比べて力が入らず、左手の握力は20キロにも届かなかった。
あきらめるのが嫌でバイクレースやスキューバダイビング、スノーボードなど興味を持つと何でもやってみた。登山もその一つだったが、のめり込むきっかけになったのが2015年に登った冬の八ヶ岳。長野、山梨両県にまたがる雪山踏破が自信になったという。
ロープを頼りに仲間たちと険しい斜面を登るが、途中に片山さんだけが登れない岩場があった。左手がうまく使えず、何度も力尽きては山腹で宙づりになった。「もうやめよう」。くじけそうな片山さんを、仲間たちは「待ってる」と言って続行を促した。体をよじり、全身を使ってロープをたぐった。山頂に立つと自然と涙があふれ、声を上げて泣いた。

片山さんは「この登山で改めて自分を取り戻せた」と振り返る。医師の宣告後に再び左腕を動かすと決意し、「限界」という言葉は捨てたはずだったが、「知らないうちにあきらめそうになっていた」。登山が弱い気持ちを断ち切ってくれると感じ、世界の難所を目指し始めた。
17年には欧州最高峰のエルブルス(5642メートル)と南米最高峰のアコンカグア(6959メートル)に登頂。これまでに約50か国を訪れ、単身で7000メートルを超える頂を踏んだことも。今夏は登山家の間で難関とされるシウラ・グランデ(ペルー)を目指す。
淡々とした顔で大きな挑戦を成し遂げた植村さんの姿にひかれるという。前向きな生き方が理想に重なる。今の自分の状況を登山に例えると「まだ5合目辺りですかね」。そう言って握る左拳にグッと力を込めた。
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