今日はキャンプを前進させる荷揚げ開始の日。

しかし、朝から大きな出来事があった。
下山時の手配を依頼しているエージェント・ロドルホと連絡が取れていない。
Wi-Fiを利用したWhatsAppからの連絡には遅いけど返信はある。
けど、衛星通信で送ったメールにも返信がなく、状況が確認できない。
何度も何度も、「衛星通信で送ったメールに返信が欲しい」と伝えても、返信がないまま。
しかし、衛星通信のメアドにメッセージが届くことを確認しなければ、サミットプッシュ後の連絡が出来ないし、連絡できないとベースキャンプから下山できない。
しかし、何度伝えても話が通じない。困った。
そんな中、仲間は、
「もう伝わっている前提で進もう。」
と言った。
オレは、その言葉に強い違和感を覚えた。
オレが気になっていたのは、
・ドローン飛行規制のダウンロード
・ドローンによるルート偵察
・エージェントとの下山日程の最終確認(ロバの到着日)
・衛星通信が正常に機能することの確認(BC以降、通信が出来ないので衛星通信の機能確認)
どれも、この遠征では欠かせないことばかり。
もしドローン偵察を後回しにして、双眼鏡だけでルートを判断し、「このルートは登れない」となれば、それまでの時間も体力も無駄になる。
だからこそ、日本にいる段階からドローン偵察、衛星通信の確認は確実に進めると、計画を立ててきた。
計画とは、いろんなことを想定し、これから何をするか、そのためにどう進めるか、を前もって決めて実行するために作るもの。
もちろん、現地では天候や雪の状態など、予定どおりに進まないこともある。
しかし、衛星通信の確認やドローン偵察は「想定外」ではなく、最初から計画に組み込んでいた項目。
オレは、目の前の問題があれば解決してから先へ進みたい。
その考えはいつも変わらない。
しかし、仲間は違った。
しかも、この考え方の違いは、実は今回が初めてではない。
アルパマヨ遠征でも何度も話し合った。
だから今回は、お互いに同じ方向を向いて遠征できると思っていた。
しかし、また同じことが起こってしまった。
その瞬間、これまで積み重なっていたことまで思い出した。
それは、買い出し中に起こったスノーバーの件。
今回の計画では、各自1本ずつスノーバーを持参することになっていた。
ところが、日本で準備している段階で、仲間はスノーバーを持っていないことに気付いたらしい。
もしその時点で「スノーバーがなかった」と一言連絡をくれていたら、オレは2本持っていたので対応できたし、仮にオレも持っていなかったとしても、日本に居る時なら他の仲間に借りたり、新たに準備したりする時間は十分あった。
しかし、その話が出たのはワラスに着いてから。
しかも、「スノーバー2本いるかな?」という聞き方。
正直、その時は一瞬、意味が分からなかった。
2本必要なのか、3本必要なのか、そもそも要らないのか。
現地に初めて来たオレたちが、その場で判断できる話ではない。
だからこそ日本で地図を読み、ルートを検討し、不測の事態まで想定して装備を選び、必要本数まで決めてきた。
オレにとって計画とは、ただ予定を立てることではない。
目標を達成するために考え抜いたものであり、その計画を遂行するために準備し、行動するものだと思っている。
最初から確認できる問題を放置して進むこととは違うと思っている。
それが、海外遠征では特に大切だと思っている。
だからオレは、問題は早く共有し、早く解決するべきだと考えている。
今回の遠征には、もう一つ問題がある。
オレは遠征前、通勤中の事故で労災認定を受け、今も治療を続けている身。
そんな状況で長期休暇を取り、この山に挑戦することを会社が快く思っていないと理解している。
だからこそ、「必ず約束した日に出勤すること」は、自分の中での絶対条件。
つまり、通信手段の確認は、下山用のロバの手配に関わるのでどれだけ面倒でも後回しにはできない。
結局、思わず感情があふれてしまった。
「そんなに進みたいなら行けばいい。でも、もぉ時間に融通の利かんオレを誘わんといてほしい。」
「会社との約束がある。絶対に約束の日に帰らなあかん。だから、今できることを全部終わらせてから出発したい。」
そう伝えた。
「分かった。かたやんが納得して登山に集中できる状態になってから進もう。」
仲間は、と言ってくれた。
ただ、その言葉を素直には受け止められなかった。
そんな複雑な思いが残った。
その後、ドローン規制のダウンロードは無事に完了。
エージェントとは依然、意思疎通ができないので、結局、24日に迎えのロバを手配することで合意した。
ようやく、一つひとつ不安要素を解消できた。
時計を見ると、もう昼前やった。
「行けるところまで荷揚げしようか。」
この提案に異論はない。
荷物を背負い、湖畔を歩き、川を渡り、草原を抜け、石垣を越えて進んでいく。


画像では分かりにくいけど、湿地になっていて、アプローチシューズやと濡れる。

途中、一人の男性が馬に乗って現れた。
土地の所有者なのかは分からない。
すると馬に乗せてくれた。
とはいえ、自分で手綱を握るわけではない。
観光牧場でスタッフに引かれて歩くような乗り方やった(笑)。
その後は、偵察済みのルートを登りながら荷揚げを続けた。

ここを弱点と考え登攀する。
オレンジ色と灰色の二色に染まるルンゼの岩壁で行き詰った地点に、小さなくぼ地を見つけた。

オレンジと灰色のルンゼが分かる?
ここを「窪んだのデポ地」と名付け、この日運び上げた装備をすべてデポする。



目の前には、BCから遠く見えていた氷河の滝。

初日に巨大なセラックが崩壊し、轟音とともに流れ落ちていった場所でもある。
帰りはBCへの最短ルートを探しながら下降。
ちょうど良い渡渉点も見つかり、今後の行動ルートにも目星を付けることができた。



夕方になると、小雨や小雪が降り始める。
この山域の天候の癖も少しずつ分かってきた。
BCへ戻ると、仲間が夕食の準備をしていた。
今回の遠征では、高所でも美味しくご飯を炊くために簡易圧力鍋まで持参している。
ところが、
「ちょっと芯はあるけど、食べようと思えば食べられるよ。」
と言われた。
……いや、それが嫌やからに圧力鍋を持ってきたんやけど(笑)。
そんな話をしていると、味覚音痴の仲間は、
「基本なんでも美味しい。」
とのこと。
価値観は本当に人それぞれ。
この日一日だけでも、それを何度も実感した。

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