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深夜23時、強風が山小屋を吹きつける音で目が覚めました。
そろそろ出発する時間です。
強風で出発を断念するグループが複数居る中、第1陣として出発したのは1グループ(3人)のみ。
完全に猛者ですね!
第2陣で出発した俺ひとりだけ。
山小屋から氷河帯の取り付きまで1時間。
岩峰を登る必要があるのですが、ルートがまったく分からない・・・。
日本だと一般的なルートにはペンキで”○”印が書かれているんやけど、エクアドルでは当然書かれていません。
結局、ルートに迷い、氷河帯取付きまで2時間かかりました。
初めてのクレバスにテンションも上がってました。
このあと翻弄されてモテあそばれることになるのに・・・。
下から見上げても、ペニテンテの影響もあり、クレバスと見分けがつかず、せっかく標高を稼いでも、クレバスを渡れず振り出しに戻されるんです・・・。
この時の絶望感と疲労感といったら例えようがありません。
しかも、氷河はちゃんと生きているんです。
真っ暗な中、めちゃくちゃ大きな音でクレバスが割れる音がするんです。
空のペットボトルを叩きつけたような音があちこちで聞こえるたびに身体が止まってしまう・・・。
それに加えて、クレバスを駆け抜ける強風の甲高い音が恐怖心をあおります。
そんな恐怖や孤独と闘いながら真っ暗な山を登ること6時間。
夜明けを迎えました。
躊躇して登っていると後続グループに抜かれていきます。
まだ下から登ってくるグループが見えます。
▲南米特有のペニテンテ※の影響もあって上から見てもクレバスって見分けにくいでしょ?
※ペニテンテ・・・スペイン語で、とんがり帽子をかぶった懺悔する聖者を指す言葉で氷の柱。白いとんがり帽子と刃のように尖った氷が似ていることから「ペニテンテ」と呼ばれています。強風がこれを形成する条件だそうです。
そのペニテンテや巨大なセラックに行く手を阻まれます。
▲左がチンボラソ(エクアドル:No.1)、右がコトパクシ(エクアドル:No.2)
こんなに分かりやすいクレバスならいいんですけどね(笑)
かれこれ8時間氷河帯を行ったり来たり・・・。
▲これがヒドゥンクレバスです。踏み抜くとクレバスの中に滑落です・・・。
このあたりから写真がありません。
標高は約5,400m、高度障害が出始めました。
意識が朦朧として呼吸を整えられないし、激しい頭痛とめまい、嘔吐が起こりました。
前へ前へと気持ちを保っているものの身体が付いてきません。
ふと気づいたときには標高180m上の5,500mに居ました。
時間にして1時間です。
どうやって180mの標高を登ったんやろ・・・・?
記憶に残っていません。
気がつけば180mの標高を登ってたんです。
我に返ったと同時に、更にひどい吐き気とめまい、頭痛が襲ってきました。
その時思ったんです、、、
”怖いっ”
”これ以上進んではいけない・・・。
標高5,580m。
そこには見えない大きな大きな壁がありました。
頂上はもう少しなのに・・・。
目の前に見えているのに・・・。
前に進みたくても進めない、進んではいけない瞬間でした。
こんなに苦しくて辛くて悔しくて悲しいとは思いませんでした。
登るまでは”行ける!”って自信満々やったのに前に進めない現実に打ちのめされて気力なくというか、疲労困憊で何も考えることもできず、ただフラフラと力なく”無”で下山するだけでした。
ところがっ!!
簡単には下山できませんでした。
下山中、最後の水が入った500mlのペットボトルを開けようとしたんですが、チカラが入らず手を滑らせたんです。
氷河だからそのまま止まることなく、滑って行きクレバスの中に消えていきました。
このときの絶望感、ショック想像できますか??
雪を口にしながら、ふらふらで下山を続け、疲労がピークになっているときに、高度順応目的でトレッキングしている人を見つけました。
思わず「水くださいっ!」って懇願しました。
そして、理由を説明すると、
『それは落とすんじゃないぜ!(笑)』
って言いながら差し出された魔法瓶に入っていたのは、めちゃくちゃ熱くて、甘い紅茶!でした。
そのおいしいこと!!
こんなにおいしい紅茶は二度と飲めないと思います。
それまでは必死に!というか、ただフラフラとチカラなく”無”で下山していたけど、その紅茶で一息つけた事がきっかけでいろんなことを考えだしました。
それが頭の中をぐるぐるまわるんです。
仲間と登っていたら、こんな苦しい事や、うれしい事を口に出して登るんだろうけど、単身やと話す相手が居ないから頭の中で会話してるんです。
辛いとか、苦しいとか、悔しいとか。。
プッシュを開始してから歩き続けること13時間。
やっとの思いで山小屋に到着。
宿の主人が家族を連れて、山小屋に迎えに来てくれていました。
下山の予定時間を3時間も過ぎたおれを黙って待ってくれていました。
おれの姿を見つけるなり、カロラインと一緒に駆け寄ってきて、
『タカ、どうだったんだ?登れたんだろ?』
『タカ、どうだったの??』
「。。。。。。」
「ダメだった。5,580mでリタイヤした。」
その瞬間、一気に空気が変わって他の登山者の”な~んや”って感じになったんです。
そんな中、宿の主人が
『こいつはソロなんだぜ!それだけでもすごいことだろ?こいつはソロなんだ!ソロなんだ!』
おれの肩を抱いてそう言ってかばってくれたことがうれしかった。
その瞬間、1年以上かけて準備してきた色々な出来事、今日感じた恐怖や絶望感が走馬灯のように思い出されて、悔しくて辛くて涙が出た。
涙が勝手にあふれて止まらなかった・・・
本当に悔しかった・・・
…
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