それは過去イチ過酷な登山と言っても過言ではない。
21日土曜日、天気予報では22日は強風(風速19m)の快晴、23日は無風の曇り。
24日以降は雪の曇り。
アイスランドに入国してから荷物の未着、極北のアイスランドでまさかの大雨と、5日ほど時間を無駄にしたことで逸る気持ちで入山を決意した。
9時過ぎ駐車場を出発。
今日は”行けるところまで行く”だけなので、汗を掻かないようのんびりしたペース。
順調に標高を上げる。
この山は”簡単”そう思っていた。

ケルン

ここ風弱い。この記憶が後で功を奏す。
標高を上げるとホワイトアウトする時間が長くなった。
のっぺりとした稜線で方向がわからなくなる。
技術的には難しくないけど、登山の感性を問われる様な登山が続いた。
標高1,000m付近、時刻は13時頃、歩き出して4時間。
今が風のピークと思いつつ、どうも様子がおかしい。
予定時刻よりも早いテント設営を考えた時には遅かった、、、爆風。
テントを張る場所どころか、そもそも設営できるのか?って状況。
みゆきちゃんにテントを押さえてもらって設営を進める。
凍った地面にアイススクリューを打ち込み支点をとる。
爆風を受け流す為、内張は敢えてポールに一点止めにして風を受け流すが外張りを被せるのも一苦労。
※こんな時こそシングルウォールがお勧めやけど、昨年の明神岳で破損し修理中で、やむ無くWウォールテントを使用した。
みゆきちゃんを入室させ俺はさらにピッケルや、アイススクリューを打ち込み、その支点にザイルを網の目に張りテントを押さえた。
テントの中に入ると天国でホッと一息。
したのも束の間、雪が壁を押してきてどんどん狭くなる。
さすがにおかしいな?と思い外に出るとすでに3/4が埋まっていた。
これはマズいと思い雪を掻く。
掻いて掻いて掻きまくる。
明らかに予報が悪い方向へ外れている。
テントの中でどうしようか?って思案していると、”バキっ!”とポールが1本折れた。
さらに雪の圧力が増してきて、”ビリっ!”と、外張りが破れた。
外に出ても中にいても死ぬ。
様子をみる為、外に出ようとするが出られない。
吹き流しの絞りを見つけて開けると雪が流れ込んできた。
外に出て唖然とした。
ついさっき雪掻きしたテントが埋まっていた。
先ほど雪掻きを終えて、テントに入ってまだ20分程。
たった数分で生死を分ける最悪の状態になっている。
みゆきちゃんに身支度を指示して雪掻きを開始した。
テントの横付近に置いたギアはどこにあるかわからない。
テントを押さえた張り綱を頼りにザイルを伝い、雪を掻きながらギヤも探す。ひたすら掻く。
身支度を整え終えたみゆきちゃんから、パッキングの終わったザックを受け取り外に引き出す。
テントを掘り出す為に雪を掻いても、そのすぐ後からどんどん埋まる。
一刻を争う状況。
ギアを回収しながら、破れたテントを見て、”パッキングに猶予もないし、テントは捨てて行こうか”って考えがよぎった。
けど、このテントは2015年、TAKA10projectが始まった時から使い込んだテント。
愛着があって手放せなかった。
とにかく大急ぎでザックの隙間にねじ込んだ。
ポールを外す時ヤバいなって思った。
ポールが折れるだけでなく、S時に曲がっている(笑)

宿で撮影。こんな曲がり方ある?(笑)
テントもギヤも全て回収できた。
下山方向から吹きつける烈風に逆らって下山を開始したが2人とも無我夢中。
爆風で煽られた時にザックのサイドにつけていたテントポールが抜け落ちて、凍った雪壁を滑って行った。
数m下に降りたら拾うことは出来たけど見捨てた。
命を守ることを最優先した。
GPSが機能していたので方向を修正しながら下山を続けた。
ふと気づくと登山中に「ここ風弱いな。」って話した岩陰まで降りてきていた。

やっと一息つけた。
徐々に標高を下げていくと暗雲の下に出た。
遥か遠くの国道に1時間に1台通るか通らないかの車のヘッドライトが微かに見える。
行動時間13時間、下山できた。
レンタカーを借りる時、「ドアを開ける時に気をつけないと風に煽られドアが壊れる。アイスランドはとても風が強いから。」って言われた。
強風の時はレンタカー会社から注意メールが届く。
下山後、ふとスマホを確認すると入山した後くらいにメールが届いていた。
「今日は風速36〜90km/h(25m前後)と風が強いので、気をつけて運転してね。Have a nice day!」って(笑)
因みに、機器で計測した記録では860〜900hPa。
<日本史上最強の大型台風>
紀伊半島及び東海地方を中心に、九州以南を除く日本全域を襲った伊勢湾台風は、最低気圧895ヘクトパスカル、最大風速75m/s(米軍の解析では165knot≒約84.9m/s)を記録した超大型台風です。
そう、おれらが日本が経験したこともない様な超大型台風の中心から生還したんや(笑)
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