熱は一向に下がる気配がなかった。
苦しい状態のまま、ほとんど寝られず、逆の立場ならどうしてほしいか?等、悩んだ。
このまま無理をして登り続ければ、自分だけでなく仲間にも迷惑をかけてしまう。
悩んだ末、朝、周りが騒がしくなってきたタイミングで仲間に下山したいと伝えた。
ここまで来て下山はしたくない。それはオレも同じやけど、夜が明けても38度越え。
高熱のまま4,000mを超える場所にいるべきではないことは、誰もが分かっていた。
しかし、仲間が一瞬だけ下山をためらうような表情を見せた。その瞬間、思わず、、、
「じゃ、オレ登るわ!」と……もちろん、本心ではない。
熱で正常な判断ができず、悔しさから思わず口をついて出た言葉やった。
「いや、そんな身体で標高は上げさせられない!冷静になって!」
「まずは選択肢を考えたい。下山と言ってもヘリも来ないからどうやって下山するか」
仲間の言うことは正しい。
山岳救助体制が整った国であれば、ヘリコプターで街の病院へ搬送され、体調が回復すれば再び山へ戻って挑戦を再開できる可能性もある。
しかし、ここはペルー・ワイワッシュ。
この山域ではヘリコプターによる救助は存在しない。
つまり、「下山する」という決断は、その瞬間にシウラ・グランデへの挑戦が終わることを意味していた。
もう一つ、大きな問題があった。
前日にC1へ荷揚げした大量の装備と食料をどうするのか。
すると仲間は迷うことなく、一人でその荷物をすべて回収してくると言った。
しかし、2人分の登攀ギヤはそんなに生易しい重さではないことはオレにもわかる。
「オレのギヤは残してきていい」
ギヤは高額だ。できれば回収したい。
でも、自分ではもう取りに行けない。
「まずは、救助を手配しよう。」
「うん、おれ馬に乗れるから馬を1頭手配してほしい」
「馬!?この距離を馬で!? 膝もおしりも痛くなって大変だよ?」
以前、アルパマヨから下山するとき、馬に揺られて下山した過酷さを知っているから心配しているのだ。
とはいえ、馬以外の選択肢が思いつかない。
エージェントに連絡して馬1頭を追加して迎えに来てほしいと伝えたら、
「馬を追加するのはいいけど、アリエロはBCから登山口まで1日で行ってくれない」と言われた。
馬なら1日で下山できる距離だ。しかし、アリエロは1日で往復することを嫌うらしい。
「明日、直接アリエロと交渉してくれ」
そういって連絡を終えた。
次は、荷下げ。
C1は標高5,100m。
荷物を回収するには、そこまで登って担いで降ろすしかない。
「食料は全部置いてこよう。」
これ以外に方法がない。
「それならギヤを全部降ろせるから任せて!」
丸2日、食事が摂れてない。唯一の救いは、日本から持ってきたポカリスエットだけは飲めていたこと。
そしたら、仲間がおかゆを作って、オレンジを切ってくれた。
何か食べないとまずいことはわかるので、好意に甘えて口にしたけど少ししか食べられなかった。

全てのギヤを回収してくれたザックはパンパン。
夕方、ハーケンの当たる音が聞こえて、仲間が戻ったと分かった。
「かたやん、全部回収できたよ!」
まじかよ!
……超人か?
けど、ありがたい。お互い高額なギヤが多いので本当にありがたかった。
「C1まで4時間で行けるようになっちゃった(笑)」
「けど、さすがに30キロ越えてるね。重かったよ」
「食料は全部中身だけ捨てて、包装紙などは全部回収、みかんは全部食べてきた」
と、笑ってた。
この日もオレンジを少し口にしただけで、それ以外は何も食べられなかった。
熱は、まだ38度を超えていた。
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